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慢性疼痛における認知行動療法

不適応行動は過去の学習経験から獲得したものと考えられているため、そうした行動は新たな学習経験を通して変容することが可能であります。 不適応行動やそのこうどうを維持している要因は治療を通して特定することができます。まずは明確な治療目標を設定し、治療は通常「現在」に焦点を当てて進められます。  様々な心理療法が開発される中で、1960年から70年にかけて認知のプロセスに関心が寄せられるようになりました。 認知行動療法(CBT)は認知療法の技法にリラクセーションや自己主張訓練などの行動療法の技法を取り入れた複合的なアプローチであります。慢性疼痛へのCBTの適用原理は、痛みまたは痛みに影響する要因に対してどのように認知し行動するべきかを学習することで、自分自身で痛みを適切にコントロールできる能力を獲得するというものであります。不適応行動を減少し適応行動を増加させることは、疼痛の軽減につながると考えられています。

CBTのメリット・デメリット

メリット

  • 広範囲の医療問題・疼痛症状に応用可
  • 低コスト
  • 高効率
  • 根拠に基づいた治療法

デメリット

  • 患者さんの積極的な参加や自宅練習が必要
  • CBT施行者に特殊訓練が必要

CBTの手法は患者さんの抱える問題の特質によって変わってきますが、慢性疼痛などの症状をもつ患者さんに何らかのメリットをもたらすと考えられています。但し、CBTだけでは痛みの治療に十分な結果は期待できず、患者のセラピストとの関係や家族のサポートなど個人を取り巻く環境に頼れるものがあるかどうかも大きく関わってくるようです。

CBTの基本的な特徴として以下のことが挙げられます。

  • 個人の感情や行動はその人の認識や考え方などに大きく関わる
  • 患者さんが自分の不適応な考え方や行動を自覚し、それを変えていこうとする方法が身につくよう自発的な手法を用いる
  • 患者さんがその手法をあらゆる場面で応用していける力を身につけられるようにする
  • 患者さんとセラピストがひとつのチームとなって協力してアプローチしていく 比較的短い治療コースになっている

CBTにおいては患者さんが自ら積極的に治療に参加していくことを前提に進んでいきますので、患者さん自身がCBTを治療に適用する意義をはっきりと理解していることが大切です。慢性疼痛は職業、家族関係、レジャー活動など生活の多くの場面で問題になり得、次第にうつ状態になり痛みに耐える力を失い始めます。まず、痛みが自分の気の持ちようで変化し得る主観的な経験であることに気づく必要があります。また、アクティブに体を動かすことが痛みを増すことにつながるわけではないことを理解し、日常生活で体を動かさないよう無理にかばったりすることのないよう意識することも重要です。

CBTにおいて、

  • 患者さんには情報を論理的に提示し、口頭だけでなく書面でも治療の詳細を説明する
  • 患者さんひとりひとりに合わせた治療計画をつくり、患者さんが困惑することのないよう情報は少しずつ開示していく
  • 治療が終わったらどうしたいか聞くことで患者さんの理解を確かめ、必要に応じて宿題を課すことや患者さんのご家族にも治療に参加してもらうことも考慮する
  • 患者さんにとって障害になっているものを把握しそれを克服できるよう努め、患者さんの理解がついてきているかを随時確認する

ことが必要になってきます。

CBTの種類

CBTには幾つかの種類がありますが、ここでは主要なものを紹介します。

A. 認知再構成法

ネガティブな状態に直結しやすい否定的な考え方をしていることを患者さん自身が客観的に見極め、それを変容していけるよう促し、それに代わるもっと前向きで現実的な別の考え方を見出せるよう導く方法です。この技法を獲得するのに、多くの治療セッションが必要になりますが、その中で患者さんに強い痛みやストレスを感じた時にその時の気持ちなどを記録してもらい、次のセッションで例としてとりあげることは非常に有効です。例えば、患者さんにできること・できないことをリストアップしてもらい、できない事柄として挙げられた活動がどのくらい患者さんにとって重要なことか、そのうちいくつかは痛みがあっても他の方法でもできる道はないかなど話し合う手法です。回を重ねていくと、患者さんのネガティブな考え方のもとにある何かがみえてくるはずです。ネガティブな感情は生活をしていればあって当然のものです。それを取り除くことが目的ではなくその度合いを減らしていくことが大切なのです。

B. スキル対処法

認知再構成法と重なる点も多いですが、特にリラクセーションや 自己主張訓練などの技法を適用して痛みやストレスに対処できる技法のレパートリーを増やしていく治療法です。セラピストが幾つかの方法を提案し患者さんに選択させることも効果的で、筋肉の緊張をほぐしたり深呼吸をしたり、治療の中だけでなく自宅でも練習をして効果がみられるのに数週間は必要です。

a) リラクセーション

痛みから気をまぎらわしたり、質の良い睡眠にも効果的です。「落ち着いて!」、「リラックス!」と自分に言い聞かせることも効果アップにつながります。どんな状況でもストレスを感じる前に応用できるようにしておくとよいでしょう。

 b)自己主張訓練

痛みやストレスが増している時に、例えば「痛い耐えられない!!」と言うことが逆に痛みや不安を助長することがありますが、代わりに「痛いけど大丈夫、すぐに痛くなくなるわ、リラックスリラックス♪」と自分にポジティブに言い聞かせていると自然と痛みに気が集中しなくなり、不安も軽減されるものです。

自己主張訓練の4段階

  1. 痛みへの準備段階
    ↓ ex.「痛みがあってもできることを考えましょう、悩んでいてもしょうがないゎ」
  2. 痛みに立ち向かう段階
    ↓ ex. 「リラックスして何か楽しい事を考えましょう」
  3. 激しい痛みを伴う決定的瞬間
    ↓ ex. 「どうしたら痛みを乗り越えられるか考えましょ、深呼吸して …、乗り切れるわ」
  4. どう乗り切ったか回想し記憶する段階
    ex. 「うまく乗り切ったわ」
C.  グループ療法

ひとりのセラピストで一度に多くの患者さんを治療できる点や、同じような状況にある他の患者さんとふれ合い励まし合うことで得るモノが大きい点が最大のメリットです。また、セラピストにフィードバックを受けるよりも他の患者さん仲間からのアドバイスの方が受け入れやすいこともグループ療法のメリットだといえます。

※ 通常、外来の患者さんで週1×1~2時間×6~12セッション、少なくとも6人、多くて10人の患者さんを含むグループが理想的で、できれば同じような問題を抱えるメンバーだけで組めるとよい。

Reference:Judeith A, Joan M : Cognitive-behavioral therapy for chronic pain. (John D. ed : Bonica’s management of pain, 3rd eds.) Philadelphia, Lippincott Williams &Wilkins, 2001, 1751-1758

認知行動療法(CBT)は様々な慢性疼痛に効果があることが証明されています。その効果の要因を特定することで理論モデルがより精密となり、治療が効果的かつ効率的になるでしょう。CBTによって改善する患者の特徴がわかれば、適応のある患者の限定や、患者の特性に合わせた療法にすることも可能になります。

方法

顎関節症患者156名を認知行動療法・教育の2つのグループに分けた無作為化比較試験を行いました。媒体とはCBTの効果に関わる要因で、痛みに対する不適切な認知・行動を減らし、より適切にするものであります。

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